会長の時間
【2013-2014】
第2374回 例会
日時:2014/04/02
場所:割烹 鈴よし
会長:高田 利徳
「職場の教養」3月号より
仙台藩直轄の漁港であった宮城県名取市閖上。豊富な海産物で賑わう街は、東日本大震災の大津波による被害を受けた。そのような中、「復興は産業から」と立ち上がった人々がいる。
旬な魚介類を十二品盛った海鮮ちらし等、新鮮な閖上浜の料理を提供する有限会社まるしげ「漁亭浜や」の佐藤智明社長もその一人だ。
自身も店舗と自宅を失い、避難所生活を続けていたが、食べるものが手に入らず苦しんでいる人たちを支えようと、以前から催していた「ゆりあげ港朝市」の再開に力を尽くした。
「震災から二週間後に場所をお借りして朝市を開いた時、逆に皆様から力を頂戴したのです。『浜やの浜丼をまた食べたい』と温かいお言葉をたくさんかけていただいたり、やむなく解雇した社員が無償で手伝いに来てくれたりしました。形有るものは無くなりましたが、目に見えない宝物を授かり感慨無量となりました」と佐藤社長。
〈もうだめかな〉と落ち込んだ時には、「前を向いて頑張る人にはいろいろな助けがある。会社を続けて人様にお役に立ちなさい」と、倫理法人会の仲間に後押しされた。「企業が元気になって、地元の人たちが元気に働く場を作っていこう」と意を決し、再建に向けての準備に無我夢中で走り回った。
その年の八月にいつの日か閖上の地に戻ることを誓い長町店を開業。十一月には仙台駅ビル内に地元の店を入れたいとの声がかかり出店に至った。
「自分一人の力では到底復活できませんでした。閖上の味を残したいという想いが人から人へと繋がって、お店という形になりました。明日着る服も持たずに大津波から逃げ、本当に間一髪助で助かりました。生かされた命と感謝して、復興の一助になりたいのです」
街は更地となり復興への課題は残されているものの、名取市復興仮設店舗「閖上さいかい市場」がオープンし、「ゆりあげ港朝市」が毎週日曜に開催されるなど少しずつ歩み出している。
全てを失った時、身を持って感じた、思いやりという無形の力の尊さを社員に伝えていきたいと、佐藤社長は言う。「料理や建物など形あるものはいくらでも真似することができます。しかし、料理を提供する際の態度や心配りなどは一朝一夕には真似できません。自分から進んで働き、笑顔で対応することが大事。心に響くサービス精神が身についていれば、どのような時でもその力を発揮することができるはずです」
閖上の架け橋となるべく、長町から浜の心活(こころいき)を発信する日々である。