会長の時間

【2012-2013】

第2315回 例会

日時:2012/12/19

場所:ホテル白菊

会長:田中 俊一


先日所要で東京に行ってきました。早々に用事を済ませ、日曜日には家内と子供と孫二人とで天気が良かったので、新宿御苑に行ってきました。それこそ40年ぶりぐらいです。前に行ったのは大学を卒業して10年くらい青雲の志を持って東京で働いていたころのことです。日本庭園があったのは覚えていましたけどあとはほとんど記憶に残っていませんでした。一番困ったのは誰といったかよく思い出せなかったことです。家内だった気もするし、別の人だった気もするし。それは家内も同じことで、あの時ここでアイスクリームを食べたじゃないといわれてもそれが俺だったのか、別の男だったのか、二人ともよく覚えてないので、とりあえず結婚前にここで二人でデートしたことにしようと決めました。こういう事は時々あります。たまに二人で東京に来て、はとバスなどで東京見物していると、ここは前にも一度来てこんなことがあったね、と言われても、それは俺ではないなー、と思いながらも自信はないので“そうだね”とか言ったりしています。家で古い映画をテレビで見て、この映画は二人で吉祥寺に見に行ったよね、と言われたりしてもそれも俺ではない気がするのですが、それさえ自信がなく、そうだったかなーと相槌を打ったりしています。

 せっかくだから久しぶりに新宿を歩いてみたいと思い家族はタクシーで家に帰らせて、一人夕暮れの新宿を歩いてみました。新宿東口から歌舞伎町のほうに何年かぶりに歩いたのですが、変わっているといえば変わっているけど変わってないといえば変わってません。一番変わったところは新宿コマ劇場が無くなったことです、新しいビルを建築中でした。喫茶王城はカラオケに代わってましたけど建物はそのままです。紀伊国屋も伊勢丹もアシベもそのままでした。新宿になじみがない人は、何の事だかわからないでしょうけど。私にとってはあるいは私たちの世代にとっては懐かしい名前です。その日は日曜日で歩行者天国でした。そういえば歩行者天国という言葉も新宿からではなかったかと記憶しています。暮れの日曜日の暮で人は昔と変わらず大変込み合っていました。

 流れに沿って歩いていても、別に40年前のことを思い出すこともなく、ただただ歩いてみただけで、そこに自分がいることに違和感もなく、かといってなじんだ感じもなく、不思議な感じでした。せめて何か関わりたいと思って紀伊国屋に入って本を買おうと思ったのですが、別に東京まで来て本を買わなくてもいいじゃあないかと、トイレだけ済まして外に出ました。外に出てもう一度人の流れを見ていると、方丈記の出だしの、川を人に置き換え”行く人の流れは絶えずして、元の人にあらず、よどみに浮ぶうたかたは、かつ消えかつ結びて久しくとどまることなし。”という言葉が浮かんできました。まさにその通りだなーという気がしました。人の流れだけ見ていると40年前と少しも違っていません。ただそこにいる自分だけが64歳になっている。そういう感じを受けました。その日は天気がよくビルの間からは冬三日月がくっきりと見えました。

  

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