会長の時間
【2013-2014】
第2380回 例会
日時:2014/05/21
場所:ホテル白菊
会長:高田 利徳
消極的か積極的か?
塗装会社に勤務するNさん。
現在は第一線で活躍していますが、入社一年目の時に、岐路に立たされました。
入社当初は〈お客様の笑顔のために精一杯働こう〉と希望に燃えていましたが、半年も経つと、不満が出てきたのです。
先輩と一緒に現場に出ても、塗装前の下地処理しかさせてもらえません。事務所内でも塗料の発注くらいしか役目が与えられず、毎日地味な作業ばかりでした。
頑張っても報われない日が続き、次第に情熱も薄らいできました。一年が経つ頃には、〈自分はこの会社に向いていないのではないか〉〈転職したほうが良いのではないか〉と、悩むようになりました。そんな時、塗料の発注ミスをしてしまったのです。
Nさんが頼むはずだったのは特殊な塗料でした。結局、納期に間に合わず、工事は延期になってしまいました。
上司と共に関係各所にお詫びをしながら、ふとNさんが上司から言われたのが次の言葉です。
「塗装工事で一番大切なのは下地処理なんだ。目に見えなくても、下地処理が適切にされていないと、綺麗に仕上がらない。大切なことは目に見えないんだよ」
ゆっくりと、諭すように話す上司の言葉に、Nさんは目が覚めるような思いがしました。手間がかかり、目立たない下地処理が、実は重要な仕事だったのです。ベテランの職人なら誰でも知っている塗装の基本が、新人のNさんには新鮮でした。
〈もう一度頑張ろう〉と思ったNさんは、その後、積極的に働くようになりました。下地処理だけではなく、面倒な事務処理も、自分なりに工夫して、良い方法を見つけて取り組むようになりました。
いつしか転職を考えたことも忘れ、数年後には、現場を任されるまでに成長したのです。
同じ会社で、同じ仕事をしていながら、Nさんの働きに、なぜこれほど違いが生じたのでしょう。
ポイントは、心の状態です。
ミスをするまでのNさんは、入社当初の気持ちを忘れ、〈この仕事は向いていない〉〈どうせやめるんだから〉と消極的な心で仕事をしていました。
その後、先輩の助言のお陰で仕事にやりがいを見い出せるようになり、仕事の成果もぐんぐん上がりました。
消極的か、積極的か――。この心の状態は、人生の岐路での選択にも大きな影響を及ぼします。
転職をやめて会社に残る場合も、〈他に行くところもないし…〉と仕方なく残るのと、〈この仕事を頑張ろう〉と積極的に残るのでは、仕事の成果も、人生の行方さえも大きく変わるでしょう。
受験や就職、転職、独立、結婚など、人は誰でも分岐点に出合います。人生を左右する岐路では悩みも深まるものですが、何かを選ぶなら、前向きに決意したいものです。積極的な心で選択した時にこそ、苦しくても、喜びに満ちた人生が待っているからです。